「介護と口腔」体験史 1 (はじめに)

 

私はおよそ9年あまり、自宅にて、歯科技工という仕事の傍ら、母親の介護を行うという体験をさせて頂きました。

現在(2019年) では、要介護・要支援の人口は650万人を超え、高齢化と共に更にこれら症状を抱えた方が増える事と予想されます。

私の親の場合は、75歳を超え急激「認知症」の症状が出始め、およそ半年後にはアルツハイマー型認知症と診断され、同時に要介護3 の認定となり。突如の介護生活が始まった訳です。

650万人なら650万人通りの、本人および家族の「介護への対処の仕方」があると思います。

「認知症」疾患への対処の仕方、生活改変の対処の仕方、疾患症状が進行した場合の対処の仕方、など皆それぞれ今まで体験していなかった事、に対しての対応に戸惑いながらこういった「誰もが成り得る」高齢と伴なった本人および家族の「介護への対処の仕方」

私の場合は、この9年間 (当初3年は、少しの時間を施設にてお世話になった時期もありましたが) 「親の最晩年」を自宅にて生活する選択をしました

その体験の中から、特に歯科技工士の職業 (食べる・咬む・飲み込む ための補助器官を制作する) でしか感じ得ない様子 を 、少し紹介出来ればと思います

(介護専門の職業の方、及び各専門の医療関係の方、とは少し異なった視点で、また、これら各専門家との体験も含めご紹介します)

 

 

75歳を超え急激「認知症」の症状が出始め、同時に要介護3 の認定となった。

その後の経過ですが、およそ3年後には「肺炎」を患い、言葉も発する事も出来なくなると同時に「嚥下動作に支障」が出て、医療選択に迫られる事態となり、結果、「胃ろう選択」をし、日夜「吸引作業が必要」な状態を選択。

言わば「完全看護状態」を自宅にて行う事を、我が家では選択しました。(この時には要介護3から、一番重い要介護5へと認定変更)

「胃ろう選択」においては、それぞれの家族間において迷うとても難しい選択事項です。中には「飲み込め無くなった時点」で「生きる能力を失ったのだから」「介護する側のその後の苦労」等 の考えで「胃ろう選択」をせずに、本人の自然な状態に委ねる、ことを選択する家族もいらっしゃいます。

(胃ろうを増設するか ? しないか ? については、日本では選択肢として欧米などより「胃ろう増設」する方が多いそうです。「観たきり老人」が少ない欧米の「老い弱まった際の考え」と異なり、”最期の過ごし方””家族の終末医療時の支え方” などの判断が日本においては、どうも他国と異なる様です。我が家おいて「胃ろう選択」した理由については、また別の機会にて)

自宅においての「完全看護状態」。意思疎通を図りながら (肺炎発症直後はほぼ表情も無くなった状態でした) 日常動作全ての補助、食事の介助 (胃ろうからの食事摂取) に加え、1時間~2時間毎に唾液がたまる為の吸引作業 など、私自身の技工の仕事をしながらこれら作業を行います。

この自宅にて、1時間~2時間ごとに吸引し、日常も全て「介護」しながら仕事をこなす生活を始めて間もない時の事ですが、「表情による喜怒哀楽」もほぼ無くなってしまっており「唾液が溜まった際」の「吸引のタイミング」が分かりずらい又、吸引作業を行っても咽頭などに留まる「唾液などが取りずらい」状態とても困っていたところ幸いにも、ある検査を行った結果、母親が「手術をすれば改善するタイプの認知症」である事が分かり、この時、直ぐに改善を願った手術を行いました

アルツハイマー型認知症と診断されてから3年後の事です。

その認知症の型は「特発性正常圧水頭症」とくはつせいせいじょうあつすいとうしょう( iNPHとも略されます) といい、私の母親の場合は、神奈川県横浜市にあるこの疾患の専門病院にて腹腔シャント術(髄液のバイパス手術) を行いました。

結果として、「認知症」の症状は劇的に改善した訳ではありませんでしたが、先に挙げた困った症状でありました、「表情が無くなっていた」ものが年々にこやかに笑うまで回復吸引作業による「唾液などの取りずらい」状態改善、など、チョット見では分からないかもしれませんが、大切な身内をあくせくケアしている介護家族にとって、とてもとても大きな変化が起きた転換期でありました。

(ちなみに同時期に同オペをされた方で、認知症の症状が劇的に改善したケースも拝見しております)

もしも、この 「特発性正常圧水頭症」iNPH という「診断名」にたどり着け無かったらどの様な状態であったか ?  もしその時一般的な情報のみで「症状の改善を諦め」てしまっていたら、もっともっと困難で「負」のイメージがプラスされていた「親との最晩年」になっていたかもしれません。「悔い」の残らぬ情報選択への手間暇は、大きな転換と成り得る事を思い知らされた事象です。

これは現在の歯科治療においても転換可能です。つまり、医学的治療エビデンスのしっかりとした治療法の選択肢が多くある事。これはとても大切な事です。

しかし、歯科業の現況はそうなっておりません。

(この特発性正常圧水頭症についての情報は、このブログの「介護と口腔」体験史の別記事にてご紹介致します)

肺炎を発症し、「胃ろう増設」を行い、幸いにも  iNPH診断の元による髄液バイパス手術のおかげで、表情もにこやかに改善し、「吸引作業」「日常介護」も慣れ始めたのは、自宅での介護生活を始めてから4年が経過した頃です。

ちょうどこの頃から、私の仕事にも関係ある「口腔分野」「自宅介護」の問題を考えさせられるようになりました

 

 

つづきは、ブログ「介護と口腔」体験史 にて、順次掲載していきます。

 

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