こちらの図形は、「咬合の学問」を学ぶ際に必ず目にします「ポッセルトの図形」の2次元改変図です。1960年代ポッセルトによって発表され、主に「下顎切歯」の誘導路や限界運動路を現わした図形で、正確には運動範囲菱形柱(うんどうはんいりょうけいちゅう) と3次元的図形でしたが、このサイト意向である「顎の片寄り」の要素を踏まえる為、2次元で作成したものです。
このサイトでは、特にこの図形で注目してほしい箇所はこの部分です。
丸の範囲内に収まった、「咬頭嵌合位 」(もしくは最大嵌合位・最大接触位) 。少しお口が開いた状態の「安静位」。前歯ガイドを滑走する「前方滑走運動路」。それと解説者によっては取り扱わない、咬頭嵌合位と最後方咬合位(さいごほうこうほい) 間の歯牙接触ベクトルを現わす「後方歯牙接触位」(こうほうしがせっしょくい ここは私が意図して加えた用語です) をご覧ください。
基礎学問として現わされる矢状面からのベクトル(方向) はこの様な「形態」です。方向を「形態」と表現しましたが、「前方滑走路形態」つまり「前歯ガイドの方向形態」と、臼歯の「咬頭・隆線」などの「各斜面方向形態」と密接にリンクした方向形態用語です。
歯牙が接触する咬頭嵌合位から「前下方斜面方向」の前方滑走運動路。咬頭嵌合位から僅かに「後下方斜面方向」の後方滑走運動路。主に犬歯・小臼歯の咬頭を起点に「右側方斜面方向」への右側犬歯滑走運動路。逆の「左側方斜面方向」への左側犬歯滑走運動路。その左右側方滑走路に加えて「咀嚼時」に大きくお口を開けて繰り返す右回転咀嚼運動・左回転咀嚼運動。最後に、少しお口を開いた状態の下顎安静位。以上、咬頭嵌合位を起点に7つのベクトル(方向) です。
下顎の運動ベクトル(方向) 7つ
咬頭嵌合位を起点として 1 前方滑走運動路 2 後方滑走運動路 3 右側犬歯滑走滑走運動路 4 右回転咀嚼運動 5 左側犬歯滑走運動路 6 左回転咀嚼運動 7 安静位
※ しかし「顎位の偏位」及び「顎関節部の変化」「歯牙・歯列形態の変化」など時間経過による変化で変わりやすい「運動路」でもあります
こちらは下顎左側の456番を舌側面から観たもので、少しお口を開けたところから、今咬み閉じようとしている状態のものです。このサイトで折々解説しています「歯牙のどの様な斜面形態」が「対合歯のどの様な斜面形態」と「どの位置で合わそう」としているか予測出来るかと思います。
下顎左側4番と5番の「これから咬もう」としている「斜面形態」をこのサイトの意図に沿って分類してみますと、4番5番ともに、赤色の斜面で「後下方斜面」である事が分かります。 これを上記7つのベクトルと重ねて解説しますと、この「後下方斜面」は下顎が「前下方向」に動いた際には「離れてゆくばかり斜面」でありますが、逆に「後下方向」に動いた際には「積極的に接触してゆく斜面」です。(「ポッセルトの図形」の改変模式図と共に「接触状態」をイメージしてみて下さい)
その「斜面」が「接触」し咬頭嵌合位となり7つのベクトルの起点となります。
今度は、4番5番の分類に加えて、下顎6番の「斜面形態」を分類したものがこちらです。近心部では4番5番よりも少しユルやかな「後下方斜面」ですが、遠心部では「前下方斜面」が現れた事が分かります。この「前下方斜面」は下顎が「前下方向」に動いた際には「積極的に接触してゆく斜面」でありまして、逆に「後下方向」に動いた際には「離れてゆくばかりの斜面」であります。
下顎が前方に動いた際には、前歯のガイドに次いで「下顎6番の前下方斜面」が「接触しやすい斜面」という事になりますし、逆に下顎が僅かでも後下方に動いた際には、「下顎4番の後下方斜面」が最も「接触しやすい斜面」という事になります。
つまり、自然の観察から得られた事として、微妙な「接触」のコントロールによって「顎の位置」にも影響を与える。事を指している現象でもあります。
私たちの生の感覚で、「咬んだ」状態の「接触」したまま僅かににズラすと「接触する箇所が変わる」事は体感出来ます。(天然歯どうしの咬み合いでは特に密に咬んでいるほどズラしても多様に接触する箇所が変わる事が分かります) 「咬合の学問」の中でも、オーストリア・ウィーン大学教授のスラヴァチェック氏は「小臼歯」の役割として、顎関節を保護するストッパー・顎の安定・順次誘導咬合のガイド 等 提唱されていますが、実際には個人でみな微妙に異なる、歯牙の咬頭・隆線 等に、より具体的な臨機応変に応用可能な物理理論ではありませんでした。各歯牙の多数ある咬頭・隆線をすべて把握する理論ではありませんので「様々な顎位」には対応出来ない事が分かります。
二つのケースの「右下方斜面」「左下方斜面」ともに、どちらのケースも「右側犬歯ガイ斜面」と平衡側・作業側臼歯の各「右下方斜面」が多様な斜面がみられる事、又、反対側の「左側犬歯ガイド斜面」と平衡側・作業側臼歯の各「左下方斜面」にも多様な斜面がみられる事。が分かると思います。
私たちは大概、このように「左右非対称形態」を咀嚼筋や口腔内各周囲の筋によって、ほぽ無意識にこれらの「多様な斜面」をコントロールしています。神経生理学的には三叉神経深部感覚情報として、上下・左右・前後からの各種収縮方向 (ベクトル) の筋紡錘情報も多く無意識で伝わっていると言えます。
実はこのように、口腔内の人口物をつくる作業というものは、これら無意識での神経情報を調整してしまう作業でもあります。(この人口物で作られた無意識での神経調整も我々が知る・把握すること自体も困難ではあるのですが) そこで、診断によってこれら各個人に診られる「各種歯牙・歯列斜面情報」を把握する事が出来ましたら、多くの可能性が秘めていると言えます。
下顎の前方時
(各動作クリックしますと画像が現れます。動かす様に比較してみて下さい)
下顎の後下方時
下顎の右側方時
下顎の左側方時
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