20年以上に渡り 歯の並んだ「形態」を観察しておりますが
左右対称(シンメトリー)な方は ほぼいらっしゃいませんでした
歯列に及ぶ左右非対称(アシンメトリー)の解析法は以下の通りです

矯正を受けた方や総義歯の方などでも、加齢と共に左右非対称(アシンメトリー) の度合いが増すことは臨床ケースで多く診られます。又、「咬合の学問」においても、歯列が並んだ状態の彎曲(わんきょく) を現わす際に、「ウイルソンの彎曲」「スピーの彎曲など習慣的な用語で使われますが、臨床のケースで当てはまるようなシンプルで、且つ、左右対称(シンメトリー) な方はほぼ存在しません。さらに、ヒトの場合、上顎と下顎に分かれてアシンメトリーですのでより複雑です「下顎位」に影響及ぼすことは容易に想像出来ます。 しかし、現在でもこれらを診断する適切な用語が無く、「下顎位」への影響も判断するような歯並びの分類も、まだ皆無といってもよい状況です。

ウィルソン彎曲のような前頭面からの視点では
シンプルな彎曲の方は ほぼ見かけません

スピーの彎曲のような矢状面からの視点でも
シンプルな彎曲の方は ほぼ見かけません

前頭面から観察して、小臼歯と大臼歯で彎曲度合いが異なる方が多い(上顎小臼歯は逆モンソンカーブ)ですし、そもそも左右歯牙の頬側・舌側咬頭や隆線で高さ異なる方ほとんどですので、左右を連ねた彎曲に出来ない場合が多いのです。

(モンソン球面説でいわれるモンソンカーブは、前頭面と矢状面を含めた仮説ですが、このウィルソン彎曲とほぼ同一で使われる事が多い用語でした。前頭面では現実に非対称である事に加え、右記でも解説しますように、矢状面でも単調でありませんので、この学説がいかに臨床的にそぐわないモノであるか想像できるかと思います)

 

矢状面から観察して、シンプルに彎曲の中心が1点だけでは無く多数の方やフラットの方がいらっしゃいますし、且つ、 彎曲の転換部位が犬歯部や小臼歯部など位置が異なる方が多いですし、且つ、左右の歯列で彎曲が異なる方が多いのです。

実際 前頭面から歯列模型に彎曲状態をトレースしますとこの様になります
当然 左右歯列で高低差があるケースは多いですし 小臼歯・大臼歯とそれぞれ
形態が異なり左右連ねるのは困難です ごく当然の事として咬む場所を無視し
咬頭頂だけ連ねた統計を採っても何も意味が無いことは分かるかと思います

矢状面から歯列模型に彎曲状態をトレースしますとこの様になります
実際には 彎曲では無く直線に近い方もいらっしゃいますし
彎曲の転換点が数カ所の方もいらっしゃいますし
左右歯列で彎曲が異なる方など シンプルな形態の方など存在しません

歯の並んだ状態の影響を解析するには 「各歯牙の形態」診断に
加えて 「彎曲の種類」「彎曲の位置」など歯列を分類し診断する
必要があります

「彎曲の種類」「彎曲の位置」とは何 ?  私の技工所では、日常の臨床を行う毎に各個人の個性を診断し、経過を追って確認する作業を行っていますが、歯並びの解析をする際は40項目近く掛けて歯列形態の解析しています。今回はそれら全ての解説は出来ず一部だけのご紹介とさせて頂きますが、今後、サイト内の別メニューにあります「応用資料」や「治療の活用」で折々説明していきますのでそちらも参考にされて下さい。

「彎曲の種類」「湾曲の位置」などの確認は実際に以下の項目に分類し 診断しております

矢状面から歯並びを観て「斜面」なのか ?
「斜面の転換点」はどこなのか ?

矢状面から観察した場合は、下顎が前方後方(正確には後下方) に動いた際の高径の変化を確認する為

  • 「斜面」なのか ?
  • 「斜面の傾斜角」の程度は ?
  • 「斜面の転換点」の位置と数は ?

などチェックします。

上記のような矢状面からの確認に加え
前頭面から(後方などから) 観て 歯並びは
どのように「左右非対称」なのか ?

上記の矢状面からのチェックに、さらに前頭面からの観察を加えた場合は、下顎が前方後方(正確には後下方) に加え右側方左側方に動いた際の高径の変化を把握しやすくなります

  • 右側が下がった形態なのか ?
  • 左側が下がった形態」なのか ?
  • 「右側が下がった形態」に加え、さらに「右側歯列」「左側歯列」それぞれ矢状面観察からの形態は ?
  • 「左側が下がった形態」に加え、さらに「右側歯列」「左側歯列」それぞれ矢状面観察からの形態は ?

など左右非対称の程度を詳細に診断していきます。

矢状面からの「斜面の転換点」の分類はこちらのシェーマも参考にして下さい

※注意 ただ 以下のような対合歯が無く一本だけ挺出したケースは今回のテーマから外して下さい

 

水平面からの確認

水平面から前歯の並び見てどのような「曲線」なのか ?
前歯と臼歯の並びはどのように「左右非対称」なのか ?
標準となるような歯牙の位置は存在するのか ?
「左右非対称」の正確な位置判断はできるのか ?

矢状面・前頭面からのチェックに加え水平面からの観察をしますと、特に、前歯部の彎曲臼歯部での彎曲正確な「左右非対称」の位置を把握しやすくなります

  • 「前歯部曲線」の左右的なは ? 前後的な幅は ?
  • 「前歯部・臼歯部曲線」の違いはどんな種類があるの ?
  • そもそも第1小臼歯第1大臼歯標準的な位置は彎曲のどこ ? 標準的な位置とは実際に存在するの ?
  • そもそも「左右非対称」の拠点となっている部位を特定し、「左右非対称の程度を診断することは可能か ?

3方向から歯列を観察し イメージを統合して解析する場合は
以下のような点も加えます

人類学でいう、アフリカ系・アジア系・ヨーロッパ系の分類が、口腔内の解剖学的特徴の、特に歯槽骨と歯列彎曲の分類に応用できます。

 
 

黄色のラインは、「前歯部彎曲の形態」「前歯部歯槽骨の舌側部形態」矢状面から観察したものですが、日本人の場合も、アフリカ系・アジア系・ヨーロッパ系を比較した際の特徴である、「歯槽性突顎」しそうせいとつがく の分類が応用できます。(日本人でも個人差で突顎の度合いが大きく異なります) 上顎は唇側からの比較はもちろんの事、「口蓋部の形態特徴」標準分類を知っておく事で「前歯部の標準歯列曲線」の確認に活用できます。又、下顎の場合は、後天的に年数を経ますと「歯槽骨の変形」が顕著に現れやすいことが観察されますので「歯並び形態」の分類とともに土台でもある「歯槽骨の変形」も併せて考える必要があります

こちらは、顎堤を後方から観た場合の模式図ですが(画像クリックで拡大),「歯列曲線の形態」と「顎骨の形態」左右非対称であり、正中からの距離が左右非対称であることをイメージしたものです。注意すべき点として、歯槽部が舌側に傾斜することによって歯列形態の彎曲「狭い状態」に観察される場合があります。この歯槽骨変形分類も、左右非対称の解析の対象にする必要があります

このように 3次元的方向 前頭面・矢状面・水平面 から
「歯が並んだ形態」の 傾斜角・転換点・転換位置の特定
など行い 上下顎骨上に及ぶ歯列の「左右非対称形態」
の分類を行い 後の動態解析のベースといたします



少し 今回テーマの “歯並びの解析” からそれますが、 同じ人体組織の一部である「口腔周囲筋」「収縮ベクトル方向」シェーマをご覧ください。図では「左右対称」で現わしてますが 、実際、我々の筋肉は厳密にいうと「左右非対称」で付着し、個体差があることは知られています。

矢状面から

前頭面から

前頭面(後方から)

良く知られている事として、各咀嚼筋の筋紡錘から伝わる信号は、三叉神経深部感覚(または固有感覚) 情報として、 求心性・遠心性 に普段ほぼ意識することなく処理されていますが、咀嚼筋以外の口腔周囲にある 左右・前後に存在する各筋肉の収縮方向(ベクトル) の筋紡錘情報も、多く無意識で伝わっていると言えます。今回「左右対称」に示しました各筋肉のシェーマは、現実には皆「左右非対称」です。上記で歯並びの各「左右非対称」の詳細を明確に診断する必要性を問いましたが、矢状面・前頭面・水平面 から 傾斜角・転換点・転換位置の特定・顎骨上の左右非対称形態部位の特定  等、診断して詳細を把握しておく事は、人工物を制作する歯科業において不可欠だと観察するたびに思います。ご覧のように、あらゆる方向から収縮し、無意識に記憶されるこの各筋紡錘の長さを変える可能性がある仕事だからです。

 

実際に模型を使用した「 歯の並びの形態」を
3次元的視点で分類したものをご覧ください

矢状面 上顎・下顎前頭面(後方から)水平面 上顎・下顎 から観察します。(下の模型は私自身のおよそ25年前のものです)

矢状面 上顎

上顎模型に診られるグレーのラインは、視点を水平方向に向けた、所謂「顔面を真っ直ぐ向いた状態」を指定した際の、水平ラインイメージして下さいグリーンのラインはこの水平基準から前下方の斜面(下向きの斜面) を現わし、赤のラインは逆に後下方の斜面(上向きの斜面) を現わします。普段、診察時など歯並びを観察する手法として行われている、奥の方に向かうにつれて曲線が上がっているかな ? とか、水平かな ? とか、少し下がっている ? とか抽象的に判断されているものを、具体的傾斜の違いを比較や計測歯列彎曲の中で一番下がっている場所(高位の場所) の特定彎曲の転換する場所や数 等を判別します。

矢状面 下顎

下顎歯列は上顎歯列よりも歯並びの分類が「多種多様」あります。 特に前歯部の並びの状態は、オーバージェット・オーバーバイトなどの下顎運動も含み、ほんの僅かな移動量(前歯ガイド・犬歯ガイド・安静位状態) が小臼歯・大臼歯の並びとリンクし関連し合っていますので、下顎前歯・小臼歯・大臼歯 共に分類の種類がとてもお多いことが分かっております。上顎と異なり下顎の場合は、咀嚼時に顎を動かす側でありますし、上記で示しました各筋肉の収縮時など前後・左右・上下の拮抗作用の影響で、実に多くの様相を呈します。ほんの0.5mmほどの個人歯列の「個性的形態」の差が動態の違いを発生します。(言い換えると隙間の動態も多種多様で分類の必用有。咬頭嵌合位・レントゲンなどの固定位だけでは判別出来ない) その為、こうした事象を踏まえまして、私のところでは20年以上前からオリジナルの基準を用いて下顎歯列を比較し診断しております。(基準はこのサイトにおいては非公開ですご了承下さい)

前頭面(後方から)

(前頭面での水平面基準 条件は上記と同様です) 水色のラインは水平基準から右下方の斜面を現わし、青のラインは逆に左下方の斜面を現わし、グリーンのラインは水平基準から前下方の斜面(俯角)を現わし、赤のラインは逆に後下方の斜面(仰角) を現わします。もし長期間に渡り「個人の歯列形態変化の経緯」を解析するとなると困難なのは誰でも理解できるかと思います。そこで臨床模型でも毎回同一条件で比較観察できるような基準を設定し、経過も比較できるよう行っております。

当然ですが、先に解説しましたように歯列形態での「咬み合う」影響に加えて各歯牙「咬合面形態」「咬み合う」ことによって「下顎位」に影響及ぼしますこのように上顎・下顎・右側・右側でそれぞれ特徴ある歯並びの形態を分類しておく事で、これらがあらゆる方向で「接触」「動いた」際の「動態」把握しやすくなります

水平面 上顎

水平面から「歯列の形態」を観察しますと、上記説明の通り、特に、前歯部の彎曲の種類前歯と臼歯彎曲の非対称の程度万人の標準指標となるような各歯牙の位置はあるのか ?左右非対称の程度の詳細を判断する  等、歯が並んだ状態が把握しやすくなります。私の所で前歯部の湾曲を判断する際などは具体的に、左右犬歯間の幅を計測したり切歯の唇側から犬歯の遠心端を計測し数値でイメージした後に加えて左右の非対称の程度を詳細に把握いたします。小臼歯部や大臼歯部などの「臼歯部左右歯列彎曲」もほぼ同様です。

水平面 下顎

こちらの下顎の歯列はおよそ25年前の私自身の模型ですが、ご覧のように左右両側第2小臼歯が欠損した状態で並んでおります実体験として自身の身体考察してきますとこの「歯並び形態」における欠点が多く分かってきます(考察の詳細はいづれ別記事で投稿いたします) 例えば、わたしの場合は第2小臼歯がありませんので、当然標準位置とは異なり第1小臼歯や第1大臼歯など位置が「遠心位」や「近心位」に移動しております(およそ6mm範囲) この移動量によって何が変わるか ? と先に答えをも申しますと「咬頭嵌合位による顎位」「咬合高径」「ガイドとディスクルージョンの動態」「安静位と咬頭嵌合位との移動量」「安静位や咬頭嵌合位における顎の偏位」等、現在状態の把握が困難なほとんどの疑問を網羅しています。(こちらも詳細はいづれ投稿いたします) これら要因をひとつ挙げますと、私の場合、下顎第1小臼歯 第1大臼歯 などの位置が標準の位置と異なるため、下顎歯列の「歯並びの形態」も正常とは異なっています。それが要因でした。ほんの僅かな1mm~2.5mm程度の「形態的特徴」によって「顎の位置」がこれほど影響する事を身を持って体験しました

「咬合」「顎位」「咬み合わせ」などを診断する際には、現実的な3次元的 左右非対称(アシンメトリー) の診断が可能となり、且つ、その影響のデータを集めることが医療として行うには最優先かなと、体験者である私は思います。

矢状面から「歯の並び」の「斜面形態」を分類し色分けした例

前頭面から(後方から) 「歯の並び」の「斜面形態」を分類し色分けした例

水平面から「歯の並びの形態」を分類した例

基本メカニズム解説 歯の接触について  >

PAGE TOP